孤独なスタンダップコメディアン

第四話:フェイク・ニュース

覆面を取った日下部が楽屋の鏡の前で、自分の顔を見ながら、
「少しやつれたかなぁ・・・」
何時ものように深く帽子を被って帰り支度をしている時、松浦が置いていったテーブルの上のファンレターが目に入った。日下部は椅子に腰掛けて、ファンレターの封を切った。一枚の便箋に書かれていたのは、次の舞台のネタに関する、指示がこう書かれてあった。『フェイク・ニュース』日下部は大きく溜息をついた。
「フェイク・ニュースねぇ・・」と呟いて、その日の仕事は終わった。

「君たちは、何故?世の中にデタラメなニュースが流れているか分かるかい?それは悪魔と取引した者たちが、メディアを操っているからなんだ。デタラメなニュースってどんなニュースかって?例えば・・・例えばだ!あるツインタワーに似た形の巨大なケーキに、何故か、ジャンボジェットが突っ込んで炎上する・・その模様を誰かがタイミングよく撮影していて、テレビで中継される・・『只今入って来たニュースです』とか言って、それを見ていた人達はどんな反応をするかというと、『なんてことを!美味しそうなケーキが台無しじゃない!』そのニュースは、瞬時に世界中へ配信され、その後、そのビルの形をしたケーキは、爆発音とともに倒壊し、街中、生クリームだらけになる。世界中の甘党は、『誰がこんな酷いことを』となる。次は犯人探しが始まるわけだが、これ又、タイミングよくテロリスト役で、ちょい役の役者が登場して、犯行声明を発表する。そのニュースを側近から耳打ちされた、ある国の大統領は『やりやがったなぁー』ってな感じで、遠山の金さんのような面構えで見栄を切る、べらんめえ口調で『とっ捕まえて釜茹でにしてやらぁ!』なんて息巻いても、肝心のテロリストは山奥に隠れて出てこねぇ。すると何でか分かんないけど、事態は急変して、『テロリストが見つかんないんだったら、どっかにもっと悪いのがいるだろう!?そいつに話しをすり替えちまえ!』となって、お次のシーンは国連の安全保障理事会の決議の模様へ。そこで、二三の国の国連大使が強硬な発言をした後、決議される。それは、勿論、武力行使・・ここまでの段取りは予定通り。その時、倒壊したビルの現場では、事件の手掛かりを探す為、皆で泥だらけになりながら、瓦礫の中を捜索する。しかし、飛行機の破片なんて、一つも出て来なかったとさ。その時、ここから遠く離れた誰も居ない砂漠に爆撃音が鳴り響いていた。時既に遅し・・要するに、まさか!そんなことする奴いねぇだろうっていうようなことを現実的にやっちゃう人達がいるわけ・・・・では何故?悪魔と取引したものがフェイク・ニュースを流すのか?それは、悪魔がその人達に成功報酬を要求するからさ。成功報酬って?成功者に対して、代償を払えということ。成功の代償って?それが、所謂フェイク・ニュースを流せって事さ。あっハッハッハッハ。全く笑えないね・・・じゃぁ話題を替えて・・・」

楽屋に戻った榎本は、呟いた。「あー疲れた・・」

その時、楽屋に松浦が入って来た。
「榎本さん、今日のネタは、ボツになるかも知れません。上から圧が掛かっていて・・」

「そう、だろうね・・」

「すいません」

「君が謝る事じゃないよ・・」

「次からは直接的な表現は避けたほうが・・生意気言ってすいません」

「あぁ・・分かってるよ」
日下部は、ミスターライアーの覆面を取った後、静かに目を閉じた。

「俺がやるべきことはこれでいいのか?」日下部は時事ネタに飽き飽きしていた。

つづく。

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