天国の図書館

第一話:墓場から送られてきた話

墓場から送られてきた話とは、家族や親友にも打ち明けられなかった秘密を、故人が墓場まで持って来た話の事で、天国に行く時、バックに詰めて持って行く。所謂、誰にも言えない墓場まで持って行かなくてはいけない話の事である。

天国の入口に辿り着くと、受付の黒い眼鏡をかけたお姉さんが、こう訪ねてくる。

「墓場まで持って行った、話はありますか?」

「あっはい、いくつか・・」
その時のために、A4サイズの用紙にまとめておいた、墓場まで持って行った話を書いた便箋が入った封筒をその受付の女性に手渡した。

「内容を確認しますので、そちらに掛けてお待ち下さい」

「あっはい」

「全部で5件ですね?」

「はい」

「では、入口の改札を通って真っ直ぐ約100メートル先にある、天国の図書館までこれを持って言ってください」と言って、今日の日付の確認印を押してくれた。

天国の図書館の地下1階には、世界中の墓場から送られてきた、誰にも言えない秘密の話を、ファイルしている女性職員がいる。

「ここの棚に収められている膨大なファイルは全て、墓場から送られてきた話です」

「こんなに沢山、人は秘密を持っているのですね?」

「そうですね、私は毎日ここで、墓場から送られてきた話を読んで、カテゴリー別にファイリングしています」

「どんな話が多いのですか?」

「詳しくは、お話できません、個人情報なので」

「話せる範囲でも?」

「話せる範囲で言うと、ある人は、若い頃、お金がなくてパン屋さんで、あんパン盗んだとか、あとは、闇バイトの罠にかかって、強盗させられたとかですかね、まぁ様々です」

「なるほど・・」

「それで、あなたが墓場から持ってきた話は?」

「私の口からは・・」と言って墓場に持って行った話の封筒をその担当者に渡した。
私は緊張のあまり、左の脇の下から汗が肘のあたりまで流れた。

それを読んだ担当者は、私にこう言った。

「あーあっこんな話かーつまんねーの」と言ってその担当者は、私の墓場まで持って行った話が書いてある用紙をゴミ箱に捨てた。

私が、長年に渡って隠し続け、墓場にまで持ってきた話は、膨大なファイルにファイリングすらされなかった。ちょっとだけ寂しかった。

その時、一人の男が大声で、「私は人を殺めてしまった。ママー」すると彼女はその男にこう言った。

「ママー!私の人生は台無しだ!そう思いっきり!叫びなさい!」と彼女は眉間の血管が切れそうな程、瞳を血走らせて言った。私はその光景を見ながら、『天国の図書館のバイトも時給の割には大変だな』と、アルバイト情報のサイトを閉じた。結局、天国も地獄もなく、あるのは現実だけだ。という事をこの時、始めて知った。

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