銀行強盗
「皆んな!俺の言う事よーく聞いてくれ!明日、計画を実行する!今までよく私に付いてきてくれた。君達には感謝している。明日の夜には、いつもの店で、祝杯をあげよう!坂本君!皆に計画の概要を説明してくれたまえ」
「あっはい。スクリーンに注目して下さい。昨日、徹夜してパワーポイントで作成した、銀行強盗必勝法!君も明日から億万長者だ!のプレゼン資料です。まず、お手元の資料の1頁目をご覧下さい。突入は銀行の正面玄関から・・・」と小一時間の説明の後、質疑応答を約50分、白熱した議論を展開した後、会議の終盤に、私は気になる事を問いかけた。
「坂本君、気になることがあるのだが?」
「何ですか?」
「突入の際、受け付けカウンターの内側の腰壁に設置してある、緊急事態発生のボタンを行員に押された場合、近くの警察署からは、約10分で現地に警察が到着する。そのボタンを押される前に、こちらからの何か良い方法はあるのかね?」
「それなら、大丈夫です。銀行の前のハイツ松井のベランダから銀行の様子がよく見える302号室の入居者のおばあさんをその時間帯、一万円を渡して、近所の甘党の店でフルーツポンチを食べて、ゆっくりとくつろいでおくようにと、買収してあります」
「そうか、抜かりないな。坂本君」
「それだけじゃありません」
「他にも?」
「はい。そのオバアさんが、近所の甘党の店でフルーツポンチを食べている間、友人のハッカーに頼んで、銀行のシステムをシャットダウンする手筈になっています」
「そうか・・・その友人のハッカーとしての実績は?」
「まだありません」
「まだないの?」
「ですが、昔、家に遊びに行った時、ハッカーの雑誌が山程、PCの空箱の上に積んであったのを見たことがあるので、詳しいはずだと」
「そうか・・・」
「それからもうひとつ」
「まだあるのかね?」
「はい。もし、最悪、銀行から警察に通報されてもいいように、その時間帯を見計らって、ハイツ松井の、302号室に住んでいる、こちらが買収済みのおばあさんに、甘党の店でフルーツポンチを食べた後、警察に言って、そこの近所で10円拾ったんですが、どうすれば良いですか?等と言って、警察が銀行に駆けつける時間稼ぎをする計画を立てています」
「そうか、坂本君。よく分かったよ」と言って、私は坂本の手を強く握った。
出席者の一人が最後に、「明日の集合時間は?」
「坂本君、明日は現地集合かね?」
「あっはい。明日の集合時間は午後4時です」
「そうか。皆んな!明日は俺に命を預けてくれ!」
「おーう!」と一斉に皆の声が会議室に木霊した。
次の日の午後4時。突入予定の銀行の玄関はシャッターによって、閉ざされていた・・・今回の計画に銀行の営業時間が3時までだという情報は含まれていなかったらしい。その事に誰も気付かなかったなんて・・・とりあえず、今日はこれで解散。白いワゴンの車の中で、今日、顔に被るはずの黒いパンティーストッキングを、もったいないので、ズボンを脱いで履いてみたが、それでも未だ、おさまりがつかないので、車に積んであった、赤色のスプレーで、尚且つ、下半身が黒のパンティーストッキング姿で、『銀行強盗参上!』と玄関のシャッターに落書きしてやった。ざまぁ見やがれ!数日後、銀行の監視カメラに写っていた、坂本以外の全員が警察に御用となった。坂本はハイツ松井の302号室のベランダで、フルーツポンチを食べていたから難を逃れたのだった。
「坂本君。次の計画を立てておきたまえ」
終わり。