戦場から愛を込めて

「皆んな!よーく聞いてくれ!これからは持久戦になりそうだから、覚悟して、今後の戦いに備えなくてはならない。食料も後わずかだが、今、我々に必要なのは、己に勝つ意志のみだ。皆んな分かってくれるな!今後、数年に渡って、このジャングルの奥地で、持久戦に打ち勝っていくための精神を養っていく為に、過酷な訓練が必要だということも分かっていてほしい。厳しいことを言うようだが、全ては御国のためだ!分かってくれるね」

「おーう!」

「分かってくれて有難う。坂本君、持久戦に勝つための心得の概要を説明してくれ給え!」

「はい、それではスクリーンに注目して下さい。昨日、徹夜してパワーポイントで作成した、『持久戦だよ全員集合!熱湯風呂我慢大会!』何ていうのはどうかな?の資料の1頁目を、ご覧下さい。先ず、作戦で 大事な事として・・・」と、小一時間の説明の後、約50分間の質疑応答を終え、白熱した議論の終盤、私はある疑問を問い掛けてみた。

「坂本君、ここ数年、敵国の兵士を見たことがあるかね?」

「いえ、ただ、」

「ただ?」

「敵国の兵士と思われる、足跡なら毎晩・・」

「そうか・・敵は近くにいるな・・」

「あっはい」

「決して油断はできないな・・」

「あっはい。早急に敵の動きを調査したほうが、良いかと?」

「分かった。明日の早朝、東西南北に分かれて、敵の動きを調査しよう。良いか皆んな!死ぬんじゃないぞ!必ず無事で全員戻って来るんだ!いいな!」

「おーう!」

そして、次の日の早朝、命がけの突撃調査を全軍に命じた。

私は祈るような思いで、全軍の指揮をとっていた。

「隊長!」

「おう!無事に帰ったか!」

「はい」

「それで北側の敵の動きは?」

「それが・・」

「それがどうした?」

「それが・・北側には大規模なショッピングセンターが建っていて、先月、オープンしたばかりだと、近所のオバサンに聞いてきました」

「近所のオバサンが言うんなら、間違い無いな。それで、敵国の狙いは何だ?」

「おそらくですが、小売業で儲けた利益で武器弾薬を購入しようという考えでは?」

「なる程・・敵も考えたな・・」

「隊長!只今戻りました」

「ご苦労!それで、南側の敵の動きは?」

「それが・・」

「それが、どうした?」

「それが・・南側にはリゾートマンションが建設中でして、近所のオバサンの話では、最上階は億ションだとか・・」

「そうか・・近所のオバサンの話なら間違い無いな。それで敵の狙いは?」

「おそらく・・応援部隊をそのリゾートマンションに宿泊させるつもりかと・・」

「なる程・・敵も考えたな・・」

「隊長!」

「東側の動きは?」

「それが・・」

「それが、どうした?」

「それが・・年度末で、国道の埋設管取替の為の水道工事で、道路が通行止めになってまして・・近所のオバサンの話では、今日中に終わるという話でした」

「そうか・・近所のオバサンの話なら間違い無いだろうな。それで敵の狙いは?」

「あそらく・・その国道を通って敵が進軍して来るのではと・・」

「なる程・・」

「隊長!」

「西側はどうだった?」

「それが・・」

「それが?」

「近くの半導体工場の、新入社員歓迎バーベキュー大会が、盛大に開催されておりました」

「それは確かか?」

「あっはい。近所のオバサンが、そこの工場で週に4日パートに行ってるって言ってたんで・・」

「そうか・・・それで敵の狙いは?」

「おそらく・・」

「おそらく、何だ?」

「おそらくですが、バーベキューを楽しんでる振りをして、我々を監視しているのではと・・・」

「分かった・・・我々は完全に包囲されているということだなぁ。坂本君、最後に君の意見を聞こうか?」

「こうなったら、最後の最後まで戦うしか無いかと・・・」

「よく言ってくれた。坂本君!皆んな、よ〜く聞いてくれ、、我々は、これまで苦楽を共にし、同じ釜の飯を食ってきた者同士!最後は、御国の為に有終の美を飾ろうじゃないか!最後まで私について来てくれるかね!」

「おう!」

「有難う。皆な急いで洞窟の中へ避難してくれ!これから、緊急の作戦会議を開く。坂本君!」

「あっはい」

「当面の食料を北側のショッピングセンターで調達して来てくれ給え!あっそれと、ポイントカードも忘れずに持っていってくれ給え」

その日の夜遅くまで、バーベキューを楽しむ人達の笑い声が、漏れ聞こえていた。

洞窟の外に出た一人の隊員が、ポツリと呟いた。

「ひょっとして、もうとっくに、戦争終わってんじゃないの・・・」

終わり。

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